アカウンタビリティから経営倫理へ

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アカウンタビリティから経営倫理へ


人間中心へ、会計で世界変える
 「会計で、世界を変えることは可能か」。これが、本書の投げかける問いだ。会計といえば、単なる数字の羅列ではないのか。読者はそう思われるかもしれない。しかし会計のもつ可能性は、実に深遠なものだ。
 企業の目的は、株主からの負託を受けて利潤を最大化すること。会計は、それを支援する働きをもつ。ところが企業は、グローバル化、格差の拡大、環境問題の深刻化など、さまざまな経済社会問題の原因者としての顔をもつ。会計が、そうした企業行動の追認を超えて、経済中心から人間中心へと導く役割を果たすことはできないだろうか。
 著者は、公共性、責任、正義といった概念を根本に据えて、会計を根っこから造り替える試みを始める。その導きの糸となるのは、哲学者アーレントとデリダの思考である。導き出されるのは、計算可能な単一(貨幣)価値に基づく資本主義への批判、そして、複数価値の復権である。
 環境への配慮、貧しい者への配慮、女性への配慮など、多面的な価値を守ることが、企業にとっては度々「費用」とされ、利潤最大化のために切り捨てられることになる。こうした価値単一化に抗(あらが)い、複数価値を認め、その達成を無限責任として企業に求めることこそが、正義にかなうというのが本書の主張である。
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財務諸表の分析と説明の限界
企業体力について

利益は出ているのに現金がショートして倒産する。どの教科書にもたいてい書いてある。現金主義会計と発生主義会計の違いを学ぶ好材料として。しかし、調達ができなくて製品が不足して倒産する、こんな現象が起きるほどいまは「製造業バブル」だそうだ。理由は特定できていない。TOKYO2020にのみ原因を求められない。近隣諸国(特に中国)の経済成長が原因であるかもしれない。原因を推定できても、メーカーも商社も事態を改善できないという。外需のせいで内需を満たせないという。こういう話を聞いていて、財務諸表は無力なのか、分析方法が足りないのか、反省する。タイミングの問題に過ぎないと理論的に説明可能だが、そのタイミングに起因して倒産もある現実の解決に会計は直接役立たない。むしろ、仕事がなくなったときにも耐えうる現金を持っているか否かが生死を決する。つまり企業の体力の問題だ。このように考えると、財務諸表の分析にも「企業の体力」分析が求められる。会計のレレバンス・リゲインの問題かも。

「企業の会計と公益法人の会計の本質は異なる」という「公理」から出発すれば、例えば、減価償却を強制すべきか否かということも考察の対象となります。番場嘉一郎先生のすごいところは公益法人の実態や海外の理論を精査し、減価償却は任意という結論に達したことです。他方で「企業と公益法人の会計は本質的に同じである」という「公理」からは、「減価償却を強制すべきか否か」という問い自体が成立しません。企業(中心部)-公益法人(周辺部)関係でいえば、それまで減価償却をしていなかった公益法人からは、「なぜ減価償却をする必要があるのですか」という質問はごく自然に出てきます。その時に、実は中心部にいる人たちは説明の必要すら感じないのです。「公理」だからです。「会計がわかっていないからでしょう」というような返答もおこってきます。この構造は長らく民族間の対立を惹起させていたものと同じ構造だと言ってよいでしょう。これが現在IFRS(国際財務報告基準)の議論の影響まで及ぶと非常に強い圧政=「構造的暴力」として公益法人の関係者に及んできます。小生は不案内ですが、公会計の議論も同様の点があるのではないでしょうか?

会計教育について
「できる」教育と「わかる」教育の相違も検討が必要だ。例えば、会計の場合、「できる」教育は検定試験・資格試験対策教育に成功例を見ることができるが、そこでの対象である技術的あるいは制度的内容の理解が「できる」と、技術や制度の意味を考えなくなる傾向が増すらしい。多くの教師が「できる」けど「考えない」学習者の多きを指摘する。「できれば考えるようになるのか」あるいは「わかればできるようになるのか」は難しい論点である。

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このページは、blogskawano.netが2018年2月16日 19:00に書いたブログ記事です。

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