財政の健全化と公会計改革

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財政の健全化と公会計改革  柴 健次 著  関西大学出版部



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公会計リテラシーとの教育 (同氏 レポート)








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財務諸表の活用に向けた課題

1、貸借対照表

地方公共団体における公共経営では、貸借対照表は企画部門において、債務の返済能力を評価する手段としてではなく、将来の行政計画を立案する上でのストック情報を把握する手段として活用してしなければならない。

ストック情報としての負債は、起債等の結果としての将来世代の負担を示し、適正な世代間負担を実現するための情報として位置づけられる。

一方、資産情報は、将来の資産資金源ではなく、過去からの支出の実績として積み上げられてきた施設・設備の状況を示す情報であり、行政計画を立案する上で利用されるべき資源の有無を把握するために利用すべきである。

さらに、適切に更新すべき社会資本を表す資産情報を用いることができる。

その意味で、資産情報は、施設・設備の利用・更新義務を表している資料であり、現在及び将来における行政上の負担を示している。

そして、資産に基づく社会資本の利用状況(減価償却費)が発生した将来負担(引当金繰入額)が行政評価のための行政コスト計算書に組み入れられる。

ただし、資産の管理・維持は、個々の資産(施設)ごとに検討することが必要である。資産の総額の大小だけでは、具体的な施設・設備の維持管理計画や、更新のための将来計画に結びつけることができない。

それゆえ、資産情報を活用するためには、総括的な貸借対照表が作成されるだけでなく、その基礎としての網羅的な固定資産台帳が実施調査に基づいて整備されていなければならない。

また、複数の事業で利用される資産も多い以上、地方公共団体の内部で資産の維持・管理責任の所在を明確にするとともに、地方公共団体としての資産管理を行う部局の設置など、組織の見直しを図ることをも求められる。

 

2、行政コスト計算書

活用モデルにおける行政コスト計算書の主たる役割は、実施されている行政事業の効率性、有効性を評価するための情報の提供である。

行政事業の効率性・有効性を評価する上では、施設・設備の利用度を表す減価償却費や、当期中の活動の結果として生じた将来負担の増加額を示す引当金繰入額も含めた行政コストにより、活動の実績を把握し、事後的な評価を行わなければならない。

また、地方公共団体における行政事業に対する評価基準が多元的なものであるならば、評価基準が異なる事業ごとに区分された行政コスト情報が作成されなければならない。

ただし、行政コストに関しては、「フルコスト」「トータルコスト」と言う概念をさらに精緻化することが必要である。

「フルコスト」と言う概念は、歳出決算額が期中の現金支出額に限定されていることへの批判として用いられている概念であると考えられる。

ただし、具体的に参入されるべきことが指摘されている非現金収支の項目の範囲はさまざまである。減価償却費が引当金繰入額等の企業会計と共通する発生主義項目だけでなく、施設・設備を使用する上での機会コストや、資金の調達、運用に伴う資本コストも含められていることもある。

それゆえ、行政コストを構成する要素を整理することが必要であろう。

ただし、コスト情報の利用目的が資源の消費を把握することにあるならば、まず、行われるべきことは、消費された労働力を把握するための退職給付引当金繰入額も含めた人件費の事業コストへの配布施設・設備の利用度を示す減価償却費の組み入れである。それらの処理が行われることで、民間の企業会計を通じて把握されるコスト情報と行政コストとの比較が可能になる。

また「トータルコスト」もしくは「ライフタイムコスト」に関しては、施設設備の取得にあたっての初期投資だけでなく、その維持や更新を考慮したコスト情報として整理することが妥当である。

ただし、行政事業部門を事後評価するためのコスト情報は、あくまで年度ごとに作成されなければならない。前年度以前や当年度以降の行財政活動に伴うコストまでもが当年度のコストに参入されれば、行政コストが課題に測定されてしまう危険性がある。

「トータルコスト」の考え方に基づいた投資計画や財政計画の立案は必要であるが、事業評価ではなく、将来に向けた計画策定で利用すべき情報であり、行政コスト計算書よりも貸借対照表に反映されるべきであると考えることができる。

なお、行政コストは公共サービスを提供するための資源の必要を示しているだけであり、提供された公共サービス自体(アウトプット)や公共サービスの提供を受けたことによる厚生の増大(アウトカム)を示すものではない。

実現されたアウトプットやアウトカムとインプットである資源の消費(コスト情報)とを対比することで行政評価を行うことができるとしても、アウトプットやアウトカムを把握するためには財務会計とは異なるシステムを構築する必要がある。

 

3、資金収支計算書

資金収支計算書は、経理(会計)部門で作成された決算情報を、地方公共団体における収支バランスを評価するための資料として利用するための手段となる。資金収支計算書が作成されることで地方公共団体における収支の全体像を把握することができ、時系列比較や団体比較により、個々の地方公共団体の財政上のバランスや特徴を明らかにすることが容易になる。

財政上のバランスを評価するための資料として資金収支計算書を位置づけることで、資金収支計算書と行政コスト計算書との相違も明確になる。

資金収支計算書は、活動を評価するためのツールではなく、あくまでも歳入決算、歳出決算額の状況を評価するための手段である。

また、決算に基づく収支を、単なる金額の大小ではなく、収支の質に基づいた評価を行うための情報が提供される。

ただし、現在の決算統計では、地方公共団体の中の他会計との間の繰入金、繰出金や、基金の積立金等の実際には地方公共団体の外部との資金受注を伴わない項目も歳入・歳出項目を含められている。地方公共団体における財政上の管理が会計ごとに区分して行われることが今後も変わらないとすれば、それらの内部的な歳入・歳出項目を資金収支計算書において、どのように使うべきかが検討されなければならない。

 

4、純資産変動計算書

貸借対照表、行政コスト計算書、及び資金収支計算書の役割を明確化すれば、純資産の変動計算書の役割は、税収、及び地方交付金収入が公共サービス提供のための資源の費消と社会資本の形成にどのように割り振られているのかを示すことに限定できる。

そして、税収・地方交付金の運用方針を決定することが予算案の作成と言う形での財政部門の役割であるならば、純資産変動計算書は財政部門で活用されるべき資料となる。

税収・地方交付金から行政コストを控除した金額が、地方公共団体で行われるべき社会資本の形成にあたって不足しているのであれば、起債より将来世代に負担を求めることになる。

したがって、純資産変動計算書は、税収、剰余金の運用方針を評価するための情報であるとともに、地方公共団体による起債の妥当性を評価するための情報になる。

しかしながら、地方公共団体における「純資産」の意味付けは未だ明確ではない。「統一的な基準」における純資産は、負債に対する資産の超過額であるに過ぎず、純資産の内部の区分として「剰余分(不足分)」と言う項目も存在している。

地方共団体における純資産の増減を評価する方法や、純資産の増減と「剰余分(不足分)」の増減との関係についての解釈の指針が示されているわけではない。 財務書類上の純資産の増減と現実の地方公共団体の運営との関係については、データを蓄積するとともに、今後も多面的な検討を行っていく必要がある。

 

 









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このページは、blogskawano.netが2018年5月 8日 09:45に書いたブログ記事です。

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