日銀日記 五年間のデフレとの闘い

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日銀日記 五年間のデフレとの闘い

著者  岩田規久男 (著)筑摩書房    発売予定日 2018年10月26日
日本経済をここまでダメにしたのは誰か? デフレから脱却し、経済成長を達成するべく、日銀副総裁を務めた経済学者による5年間の記録。歴史的転換点に立ち会え。【商品解説】
発売前なので、ネットからの情報です。
デフレを伴った長期停滞に陥った日本経済において、日本銀行の金融政策を批判し続けてきた岩田氏が副総裁の立場で苦闘した様が、多様な人々との関わりと共に活写されている。安倍政権の経済政策(アベノミクス)や、アベノミクスの第一の矢として位置づけられた「大胆な金融政策」がどのような形で行われたのかという点については既に政策担当者への取材を通じまとめられた類書もある。だが、やはり金融政策の理論的支柱であった岩田氏の目線からの回顧は貴重であり、その金融政策への是非はともかくとして一読に値する本である。印象に残った点を三点。

 まず、時々に記された日記という本書の体裁が、読者に活き活きとした臨場感を与えるという点である。特に、2013年4月の「異次元の金融緩和策」、2014年4月の消費税率引き上げ、2014年10月の追加緩和、その後の原油安や世界経済の変調、2016年2月のマイナス金利政策の導入、2016年9月の総括検証と「長短金利操作付き量的質的金融緩和」への移行、といった出来事を巡って、岩田氏が何をどう考え、政策決定がいかになされたのか、昭和恐慌研究会を含む「岩田ゼミ」の面々がどう関わったのかという点が活写されており、やはり事実は小説よりも面白く興味深いと感じる。政策形成過程をより深く知るという意味では、日銀執行部に属する岩田氏と企画局との関係の解明や政策決定会合の議事録の公表を待つ必要があるが、(その点を考慮に入れてもおそらく)必要十分だと感じる内容である。

 次は、金融政策をつかさどる中央銀行副総裁としての岩田氏と政治家との関わりである。大学教授時代から論客としてならした岩田氏からすれば、反論は許されず、理不尽な扱いに黙って耐えるという国会質問は耐え難いものであったのだろう。経済政策を巡る議論は、まず事実を事実としてきちんと認識することが必要だ。この点、国会質問に関する日記は、金融政策に関する俗説への批判集としても読むことができ、興味深い。

 「異次元の金融緩和策」は当初は大きな成果を挙げ、日本経済は「2%の物価安定目標」の到達まであと一歩の所まで到達した。しかし、デフレからの完全脱却途上に行われた8%への消費税率引き上げは、「リフレ・レジーム」を毀損させ、物価に関しては目標からは未だ程遠いのが現状である。海外経済の不確実性が増す中で19年10月には再び消費税率引き上げが予定されているが、本当に影響は軽微といえるのか。デフレからの完全脱却は可能なのか、疑問である。岩田氏はデフレ完全脱却のために、財政政策、社会保障政策、及び成長戦略が需要を喚起する「リフレ・レジーム」になっておらず、「リフレ・レジームの再構築」が不可欠であると説く。本書を読むと「リフレ・レジームの再構築」は政府・日銀を含めた多様な政策担当者の連携が不可欠であると感じる。
岩田規久男
いわた きくお
経済学者
岩田 規久男は、日本の経済学者。上智大学・学習院大学名誉教授。専門は、金融論・都市経済学。小宮隆太郎の弟子。リフレ派経済学者の第一人者として知られており、学習院大学教授時代、積極緩和派の急先鋒として鋭い弁舌で知られていた。また日本銀行に批判的な論客として知られていた。 ウィキペディア
生年月日: 1942年10月3日 (年齢 75歳)

日銀日記


以前著作

リフレが日本経済を復活させる 

リフレが日本経済を復活させる 経済を動かす貨幣の力
岩田規久男、浜田宏一 、原田泰著  中央経済社  2013年3月
デフレは貨幣現象であり、そうであるからこそ、デフレ脱却には金融政策が不可欠である。なぜデフレは貨幣現象なのか、なぜ金融政策によってデフレから脱却できるのか、なぜその過程で生産と雇用が増大するのかを、論駁の余地のないように明らかにする。




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このページは、blogskawano.netが2018年9月30日 07:06に書いたブログ記事です。

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