2022年1月アーカイブ

日本型格差社会からの脱却     岩田規久男 著 光文社新書


日本は信じられないくらい 「貧しい国」になってしまった。 前日銀副総裁による 日本社会への警告と成長への処方箋 ◎内容紹介 1990年代以降、日本では格差が広がり続けている。例えば、非正規社員の増加は賃金格差を招き、ひいてはその子供世代の格差も助長している。さらに、世代ごとに受給額が下がる年金制度は、最大6000万円超の世代間格差のみならず、相続する子供・孫世代の世代内格差の原因に。所得再分配政策 ...
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本書は「アベノミクス」の理論的支柱であり、日本銀行副総裁としてその実務も担った岩田規久男名誉教授が、「アベノミクスの先」にあるべき経済政策、特に、成長政策と所得再分配政策について包括的に論じた現時点での決定版ともいえる書であり、我が国の将来像に関心のある国民にとっての必読書である。
 著者は、バブル崩壊からアベノミクス開始までの日銀のデフレ政策が、正規職員の減少と非正規職員の急増を招き、非正規職員の所得が十分でないため少子化が進み、その結果、年金の持続可能性を低下させ、年金の世代間格差をもたらしていることを、データに基づいて明らかにしている。
 本書によれば、我が国の格差は「デフレによる雇用悪化がもたらした格差」であり、欧米型とは異なるユニークなものである(「日本型格差」)。それに対する最も有効な対策は、デフレを脱却するマクロ政策により人手不足経済を維持、推進することである。そのことを理解し、最初にその政策を実行したのは第二次安倍政権であった(アベノミクス)。さらに、安倍政権は、子育て支援策や失業者のスキルアップによる有利な転職の可能性を高める政策(積極的労働市場政策)を打ち出している。本書は、「資本所得税の累進性の導入」や「負の所得税方式の給付付き税額控除制度の導入」などを提案しているが、これらは今後の重要な課題である。
 著者は、「デフレを脱却し、雇用を改善する政策が最善の所得再分配政策である」ことを強調する。このような視点は、これまでの格差を論ずる専門家には見られなかった態度である。成長政策として労働生産性を議論する際も、所得再分配政策として雇用政策や年金問題を議論する際も、「デフレから完全に脱却し、もう二度とデフレに戻らない」ということが最低限必要であり、それが著者の一貫した態度である。

 与野党を問わず、今後の経済政策に関心を持ち、重要な役割を果たされている政治家諸氏にも、是非、一読をお願いしたい一冊である。


アベノミクス2016^LJ新3本の矢 更新版.pdf


日本型格差社会からの脱却

 

日本の格差問題はジニ係数だけ見ていては捉えきれない問題であり、どの格差問題も根本原因はデフレによる長期経済停滞である。

したがって。格差を縮小し、相対的貧困者を減らすためには、デフレから完全脱却することが不可欠である。

この意味で。日本の格差は他の先進国と異なる「日本型格差」と名付けるべき「格差」である。

戦後、デフレを経験した国は日本しかないこと、そして、デフレが長期経済停滞をもたらすことをしっかり認識していただき、選挙に臨んでほしいと願うものである。

さらに。格差の是正にはデフレ脱却に加えて次のような政策も必要である。

    格差の縮小は高所得者・高資産家から低所得者・低資産家への分配を伴うが、それだけでは将来の医療や年金制度などを「国民が安心できる」水準に維持することはできない。この水準を維持するためには、1人当たりの生産性、つまりは1人当たりGDPを引き上げる政策が必要である。その政策は公正な競争政策を導入し、女性の労働参加率を引き上げ。さらに次の②から⑧を実施することである。

    日本の所得再分配政策は社会保障による高齢者への再分配に偏っており、税による所得は再配分が弱い。これを正すために資本所得課税に累進制を導入する。

    雇用契約の自由化により、正規社員と非正規社員の区別をなくし、労働市場の流動化を進める。

    失業や転職などが不利にならないように、職業訓練制度や就業支援制度を取り入れた積極的労働市場政策に転換する。日本でも、2014年頃から積極的労働市場政策への転換が始まった。今後は、この政策を進化させることが必要である。

    所得再分配政策を集団的所得再分配(中小企業や農業などの特定の集団を保護することによって、所得を再分配すること)から個人単位の所得再分配へ転換する。

    ⑤ から派生する問題であるが、公的補助は供給者ではなく、消費者を対象にすべきである。教育や保育などの分野での利用券(バウチャー)制度の導入がその例である。

    切れ目のないセーフティーネットを整備するために、④の積極的労働市場政策を推進するとともに、負の所得税方式の給付付き累進課税制度を導入する。切れ目のないセーフティーネットが整備されれば、生活保護の対象者は、不稼働者(健康上の理由等に、より働く能力を欠く人)だけになる

    年金純債務(すでに年金保険料を支払った年金支給開始以降の加入者の生存中に、政府が支給しなければいけない年金額から年金積立金を差し引いた政府の純債務)を、新たに創設する「年金清算事業団」に移し、時限的に新型相続税を設けて、それを財源に長期にわたって返済する。今後。年金を受給する世代の年金制度は「修正賦課方式」から「積立方式」に転換する。

    デフレ脱却に以上のような改革が伴えば、日本の格差は縮小し、より住みやすい社会になると期待できるであろう。

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