新自由主義の浸透によって格差や貧困、環境破壊が拡大し、人間の生きる場が崩されている。
あらゆる決定を市場と為政者に委ねてよいのか。
いまこそ人びとの共同意思決定のもと財政を有効に機能させ、危機を克服しなければならない。
日本の経済と民主主義のありようを根源から問い直し、人間らしく生きられる社会を構想する。
序 章 経済危機と民主主義の危機
民主主義による貨幣現象としての財政
社会システムにおける生命活動
財政の三つの役割
財政によるシステム統合
市場経済に抱かれる国家
民主主義に希望を託して
第1章 「根源的危機の時代」を迎えて
人類の存続が脅かされる危機
「生」は偶然だが、「死」は必然である
内在的危機と外在的危機
二つの環境破壊
所有欲求か存在欲求か
誤ったハンドル操作による自然環境の破壊
新自由主義の「政府縮小─市場拡大」戦略の登場
新自由主義による社会環境の破壊
共同体の崩壊と原理主義の台頭
地域社会の変容
第2章 機能不全に陥る日本の財政──コロナ・パンデミックが浮き彫りにした問題
転換期に繰り返されてきたパンデミック
コロナ・パンデミックへの財政動員
日本型コロナ・パンデミック対応の問題
医療費抑制圧力の悲劇
なぜ「医療崩壊」を招いたのか
費用保障としての医療保険
公的医療機関の少ない日本
浮き彫りになった日本財政の無責任性
人間の生存に必要な対人サービス
労働市場と家族の変容
対人社会サービスへアクセスする権利保障
エッセンシャル・ワーカーの劣悪な労働条件
「規制・統制」受容の代償
生活面よりも生産面を優先した日本の対応
問われる財政の使命
財政縮小路線の大転換
財政機能の衰退
いまこそ財政の使命を拡大する戦略へ
第3章 人間主体の経済システムへ──民主主義を支える財政の意義
「生」への省察の覚醒
未来の選択を民主主義に委ねる
民主主義を有効に機能させる
社会システムを活性化する
民主主義を下から機能させる
財政を機能させる
「参加社会」か、「観客社会」か
「参加社会」を成り立たせるもの
「観客社会」における民主主義への不信と絶望
熟議にもとづくスウェーデンのコロナ対応
「強い社会」というヴィジョンの構想
熟議と連帯というプロセス
人間不在の「新しい資本主義」のヴィジョン
人間を「手段」とするか、「目的」とするか
実態をともなわない「成長と分配の好循環」
知識社会のインフラストラクチュアとしての教育
人間が人間として成長するための「学び直し」
対人社会サービスの充実と地方自治体の役割
協力原理で下から民主主義を積み上げる
第4章 人間の未来に向けた税・社会保障の転換──いま財政は何をすべきか
人間の生命活動を支える帰属所得
「社会保険国家」から「社会サービス国家」へ
現金給付と現物給付の役割
「社会保険国家」となっている日本
現物給付の少ない日本
「全世代型社会保障」の光と影
現物給付なき高齢者福祉の悲劇
声なき声の民主主義
子どもたちが育ちたいと思う社会へ
租税負担の低い「小さすぎる政府」
低すぎる公的負担がもたらす苦しい生活
共同事業のための共同負担の必要性
「小さな政府」の逆進性
資本に軽く、労働に重いという「逆差別性」
富裕税の創設を
利益原則にもとづく消費課税
「大きな政府」の逆進性、「小さな政府」の累進性
「事後的再分配」から「事前的再分配」へ
国民による財政のコントロールが困難な日本
財政民主主義を機能させる「三つの政府体系」
第5章 人間らしく生きられる社会へ──地域の協働と民主主義の再生へ
太った豚になるよりも、痩せたソクラテスになれ
「量」の経済から「質」の経済へ
地域社会から存在欲求を充実させる
崩れ落ちる地域共同体
持続可能な都市の創造──地域の生活機能の再生から
「環境」と「文化」を取り戻すストラスブール
「公園のような都市」づくり──ドイツ・ルール地方
経済指標から社会指標へ
大正デモクラシーの教訓
信州で芽生えた国民教育運動
民主主義の活性化に向けた自治体の役割
巨大な富の支配と民主主義の危機
グラス・ルーツでの対抗とポピュリズムの台頭
形骸化した民主主義を再創造するために
おわりに──人間を人間として充実させるヴィジョンを描くために
あとがき
主要参考文献
神野直彦(じんの・なおひこ)
1946年埼玉県生まれ.
東京大学経済学部卒業.東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学.
東京大学名誉教授.財政学.
著書に『システム改革の政治経済学』『経済学は悲しみを分かち合うために──私の原点』(以上,岩波書店),『「分かち合い」の経済学』(岩波新書),『財政のしくみがわかる本』(岩波ジュニア新書),『財政学』(有斐閣),『地域再生の経済学──豊かさを問い直す』(中公新書)など.
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