こんな本を読みました。
「資本主義の方程式」
資産選好、消費選好をキーとした経済社会の分析、資本主義の経済低迷や格差拡大の基本方程式を探る
小野善康 著 中公新書
近年、急速に発展している神経経済学では、経済行動に関する人間の喜怒哀楽を脳内のどの部位で感じ、反応しているかを調べています。
目下の主な研究対象は、ミクロ経済的現象であり、
例えば「最後通牒ゲーム」や「公共財ゲーム」と言う経済実験においては、
人間は利己的な欲望以外に、公平性や相手への懲罰の欲望があり、自分への直接的な報酬が下がってでも、相手を罰することに快感を覚えることが、脳内の反応からわかってきている。
こうした脳内反応の分析は、本書で取扱った長期不況や格差拡大などのマクロ経済現象を引き起こす消費選好と資産選好についても、応用できる可能性があると。
脳科学では、
食欲などの具体的かつ直接的な欲望は一次報酬、
金銭や地位等への抽象的な欲望は、二次報酬、
と呼ばれている。
消費選好は前者であり、資産選好は、後者である。
考えるべき方程式は、この2つの報酬の脳内での比較を表しているといえよう。
消費は、人間が生きていく上で不可欠だが、それを際限なく追求して食べ過ぎれば、体を壊したりするから、一次報酬への欲望を制御する機能が、前頭前野の眼窩全頭皮質に備わっている。
ところが、二次報酬への欲望の制御については、眼窩全頭皮質では働いておらず、どこで働くのか、そもそも存在するのかについては、未知の部分が多いようです。
実際、自分自身のことを考えても限りなく食べれば、体に良くないことはわかっているから、意識して食べ過ぎや飲み過ぎを制御しようとする。
しかし、地位が上がり、金が溜まっても、それを成功の証として肯定的に受け入れ、抑制しようとは思わない。
これは、生命が脳内で抽象的な欲望を発達させたのは、ごく最近のことであり、一次報酬の制御機能は獲得していても、二次報酬の制御機能はまだ十分に獲得していない、
と言うことかもしれない。
さらに一次報酬と違い、二次報酬は、体に直接悪い働きをするわけではないので、二次報酬の制御機能を発達させる必要もなかった、であろうとも。
しかし、人間は、ここ数千年の間に巨大な社会を形成し、巨大な生産力を獲得するようになった。
その結果、制御の効かない地位選好は、権力欲や領土欲となって、大規模な戦いをもたらし、制御の効かない資産選好は、長期不況や格差拡大による深刻な社会不安を生み出している。
今や人間は、種の安定的な存続のために、直接的な報酬や損害を超え、社会をつうじた報酬や損害までを考慮して、二次報酬追求の制御機能を発達させるべき段階に、なっているのかもしれない。