『21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略 (原題)FISCAL POLICY UNDER LOW INTEREST RATES』オリヴィエ・ブランシャール著 日本経済新聞社

コロナ禍では生活保障のため多くの財政支出が行われ、さらに現在は防衛費や少子化対策費の増額も求められている。これほど政府の支出を増やして財政破綻のリスクは無いのだろうか。
本書は著名なマクロ経済学者による現代の望ましい財政政策の分析と提言である。
本書の分析はシンプルである(用語の表記はわかりやすくするため本書とは変えている)。
インフレ率を考慮した金利と経済成長率とを比較すると、政府債務は金利で増加していくが生産は経済成長率で増加するので、金利が経済成長率を下回る限り、生産に対する政府債務の割合は低下していく。
金利は世界的に見れば過去三十年間で着実に低下しており、その理由と考えられるのは中国などの成長による国際的な貯蓄増や長寿命化による将来に備えた貯蓄の増加などの構造的要因であるため、低金利は今後も続くと考えられる(著者は昨年以来のインフレや金利の上昇は一時的なものとみる)。
そのため金融政策の余地が小さくなる一方で政府債務の持続可能性のリスクは低くなっており、各国は財政政策を活用することで低迷する民間需要を補い、マクロ経済を安定化できるという。
本書では日本の一九九〇年代半ば以降の不況対策について、低迷する民間需要を積極的な財政・金融政策の活用によって補い一応の成功を収めたとして、財政支出の規模が「ちょうどよかった」例と評価している。
一方で貯蓄の減少と消費増加のための社会保険の充実、経済成長率を高める出生率改善や構造改革、そして高水準の債務に対応するため、時間をかけて財政政策を引き締め中央銀行のバランスシートを縮小していくことの必要性も同時に指摘している。
財政・金融政策については様々な主張がされているが、本書ではオーソドックスな経済学を基に、持続可能な財政の条件についてバランスのよい議論がされている。
今後の経済政策を考えるうえで読まれるべき本である。
(概要)
21世紀の財政政策 低金利、高債務化の経済戦略.pdf